ケガからの早期復帰に最適~血流制限トレーニング~
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2025年03月28日
宇都宮市JR岡本駅東口より徒歩5分。
可動域向上・動作改善・強化による症状の根本改善を目指した施術とアスレチックリハビリテーション・パーソナルトレーニングを提供している鍼灸接骨院トレスです。
先日、東京にて開催されたSMART TOOLS JAPAN主催のSMART cuffs認定血流制限トレーニング資格コースを受講してきました。
当院でも6年ほど前から他社製品の血流制限トレーニング機器を使用していましたが、この度、同社製品に乗り換えるにあたって改めて血流制限トレーニングに関する最新の知見を学んできました。
講義を担当してくださったイケメンマッチョの伊田先生は東京大学で血流制限トレーニングの研究もされているゴリゴリの研究者というのも同製品に乗り換えた理由の一つでもあります。
東大の研究者ということで話についていけるか心配な部分もありましたが、質問に対してもエビデンスベースで端的に答えてくれるので、このレベルの脳の構造をお持ち方は教えるのも上手なんだなと私の心配は杞憂に終わりました。
今回はそんな血流制限トレーニングについての内容です。
海外ではリハビリに積極的に使用されている
一般の方には血流制限トレーニングと言われるとピンと来ないと思いますが、加圧トレーニングという名前は知っている方も多いのではないでしょうか?
加圧トレーニングは日本発祥で、どちらかというとフィットネス分野で活用されていますが、アメリカで開発されたsmart cuffs等の血流制限トレーニングが日本の加圧トレーニングと違うのは、リハビリを含めた医療分野での活用されているという点です。
すでにアメリカでは理学療法士協会がリハビリ分野で積極的に活用していて今やリハビリの主流になりつつあるそうです。
そのアメリカのFDA(食品医薬品局)で認証を受けている機器は2種類で(Smart cuffsまたはDelphi)そのうちの一つsmart cuffsを当院で導入しました。
発祥は日本のはずなのに、医療の分野では海外で積極的に使われているという一種のねじれ現象が起きていますが、伊田先生をはじめとする研究者の方々のおかげで今後日本のリハビリ分野でも広まっていくものと思っています。
血流制限トレーニングがオススメな方
・リハビリ中の方(筋力・筋肉量の回復促進、骨折であれば骨癒合が早まります)
・高負荷トレーニングが難しい方(高齢の方、高負荷トレーニングが耐えられなくなってきた中年以降の方←私)
・筋肥大させたい方(比較的短期間で筋肥大が可能です)
・忙しくてウエイトトレーニングにかける時間が確保できない方(20分程度で十分な負荷になります)
リハビリに最適な理由
手術後や怪我をした後に一定期間動かせない状況になると筋肉は萎縮します。10日も動かさなければ萎縮は顕著になるといわれています(特にタイプⅡ線維といわれる速筋線維)。
日常生活やスポーツに復帰するためには、なるべく早い段階からリハビリを始めたいところですが、ケガ中は十分な強度の負荷をかけにくく、もちろんリハビリ段階から高強度のトレーニングはできません。
またチューブトレーニングなどの低強度のトレーニングなら早期から行うことは可能ですが、低強度で筋力を回復させるには負荷が足らず、筋肉量を回復させる目的なら疲労困憊まで追い込む必要があるため、筋力、筋肉量という点では難しい問題も出てきます。
そんな時には低強度ながらも筋肥大と筋力向上が見込める血流制限トレーニングが有効という研究結果が出ています。(血流制限トレーニングは、その人が持っている最大筋力の30%の負荷で十分)
また、トレーニングせずとも機器を介して血流制限→還流を繰り返すことで治癒を早める効果もあることが分かっています。
結局のところ血流制限トレーニングを行うと何が起こるのか
ここでは生理学的な話になるので、興味のない方は飛ばして読んでください。
まず、血流制限トレーニングのメカニズムとして、無酸素下に近い状況を作ることができ、結果的に低負荷であっても遅筋が早期から働けない状態になり、速筋(前述したタイプⅡ線維)を使わなければならない状況(高負荷に似た状況)になるため、低負荷であっても筋肥大と筋力向上が起こるとされています。
成長ホルモンの分泌
成長ホルモンの分泌が高強度トレーニングに比べて1.7倍増加するといわれています。また、成長ホルモンはトレーニングで負荷のかかった部分の修復を助けます。成長ホルモンは筋肉量を増やしたり、骨の成長を促したり、脂肪を分解したり様々な働きに関与します。
IGF-1の分泌
インスリン様成長因子。インスリンと似た構造のホルモンで、成長ホルモンと一緒に働くことで損傷の修復・回復・再生を行います。また、ビタミンcと一緒に働くとコラーゲンを合成します。
mTOR1の分泌
最近、重要視されているタンパク質合成を促してくれる物質で、筋肉の成長に不可欠です。血流制限トレーニングで有意に生成されます。
ミオスタチンを抑制
血流制限トレーニングは筋肉を分解する因子であるミオスタチンの発生を抑制してくれます。mTOR1で成長し、ミオスタチンを抑制して分解を抑えることで筋肉はより成長しやすい環境になります。
筋サテライト細胞が生成
筋肉は常に成長→分解という代謝が起きていますが、新しい筋細胞を作るために必要な細胞である筋サテライト細胞の生成が血流制限トレーニングによって促進されます。
ヒートショックプロテインが発生
身体にかかるストレスの影響を抑制して身体の恒常性を維持してくれます。
パンプアップする
血流を遮断・制限することで遠位部に血液が溜まると、静水圧と浸透圧、イオン濃度の勾配差により体液が筋肉に送り込まれることでパンプアップします。
心拍の変化
血流制限トレーニング中は心臓の1回拍出量は低下しますが、心拍数を増加させて拍出量を補う反応が起こります。その結果として心肺機能向上を狙うことも可能です。
Vo2Maxの向上
最大酸素摂取量。1分間にどれだけの酸素を取り込めるかの指標。血流制限下で40%Vo2Maxでのサイクリングを週3回15分ずつ8週間継続するとVo2Maxが6.4%増加し、疲労回復時間が15.4%改善したという研究結果があります。
血管内皮増殖因子(VEGF)の発生
毛細血管の成長を促進し、毛細血管密度を増加させてくれる因子であり、創傷修復にも関与します。これも血流制限トレーニングで増加します。
乳酸の発生
低強度のトレーニングであっても血流制限下で行うと、高強度トレーニングと同程度の乳酸の蓄積が起こります。
乳酸は疲労物質である一方、脳や筋肉のエネルギーとなることが分かっています。(乳酸の処理能力を向上させるために継続的なトレーニングは必要)
エンデュランス系スポーツ選手においては、血流制限トレーニングを行ってから有酸素性トレーニングを行うことで体内に乳酸が蓄積した状態を模してトレーニングをすることができる可能性があります。(アメリカの水泳選手はすでに取り入れています)
筋肉や関節にダメージが少ない
アメリカスポーツ医学会によると、筋肥大させるには70%1RM以上の高負荷が必要とされていますが、研究結果によると30%1RMで血流制限トレーニングを行うと、80%1RMの高強度トレーニングと同等の筋肥大効果が得られたとのこと。(※1RMとは1回だけ持ち上げられる最大の重さ。例:1RM100㎏の80%1RMなら80㎏、30%1RMなら30㎏でよいということ)
とくに高強度トレーニングでは12~16週間のトレーニングで15~20%の筋繊維面積の増加に対して、血流制限トレーニングでは4~8週間のトレーニングで30~50%の筋線維面積の増加が見られたという文献も存在します。低強度であっても血流制限トレーニングを併用すれば短期間で筋量の回復が狙えるということです。
また、扱うウエイトの重量が軽いため、筋肉や関節にかかるダメージが少ないのも特徴です。
その他
鎮痛効果、骨癒合の促進、骨密度の向上、認知機能の向上などが挙げられます。当院でも骨折のリハビリ段階の患者さんに使用した例もあります。
【参考文献の一部】
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/16339340/
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/20544482/
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/20618358/
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/25264670/
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/24188499/
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/21917016/
高強度トレーニング VS 血流制限+低強度トレーニング VS 低強度トレーニング
筋肥大は高強度トレーニングと血流制限+低強度トレーニングで同等に起こり、筋力向上は高強度トレーニングの方がやや優位とされています。
筋肥大を絶対させたくないと考えているエンデュランス系スポーツ競技者であれば高強度(90%1RM以上)が主なターゲットになってくるかと思いますが、選手レベルに有酸素運動のボリュームが多い方なら、そもそも筋肥大させることが難しいのであまり気にしなくてもよい話かと思います。別項でエンデュランス系スポーツ競技者への応用方法を書いていますので、そちらをご覧ください。
以下の表にまとめました。
リハビリにおける血流制限トレーニングの活用例
血流制限トレーニングを手術や怪我によるリハビリでどういった活用をするか、足首の骨折に対するケーススタディを紹介します。
①手術前
手術が必要なケガ(骨折や靱帯再建術など)の場合、手術まで日数を要する場合は手術前から血流制限トレーニングを活用します。
目的は筋肉量の維持。筋萎縮を抑えて維持したいフェーズです。
この段階では血流制限をした状態での自動運動は行わず、脚の筋肉へのEMSを使った神経筋肉への電気刺激(某シックスパックみたいなもの)とsmart cuffsを使っての血流制限→還流を行います。
②手術後
目的は有酸素運動能力の向上と維持。
術後に荷重できない場合には、手術前に行っていたことに等尺性運動(関節の動きを伴わない筋収縮)を追加します。
荷重できるようになった段階で、smart cuffsを装着した状態でのウォーキングを心拍数を管理(心拍予備能HRRがターゲット)しながら最大20分行います。
ウォーキングが問題なくできるようになってからはスポーツをしている方には競技復帰に向けてsmart cuffs装着下での単関節運動による筋力トレーニングを行います。例:足首の骨折であればカフレイズ(つま先立ち)等
単関節運動もしっかりできたら次はsmart cuffs装着下での多関節運動を行っていきます。例:スクワット等
③競技への復帰
スポーツをしているわけでなく、日常生活に戻るレベルであれば多関節運動がしっかりできていれば問題なく生活できる状態まで回復しているかと思います。
そこからさらにスポーツに復帰するためにはケガする前に行っていたようなウエイトトレーニング等のトレーニングを再開して強度を上げていく必要があります。
血流制限トレーニングでも筋力向上は見込めますが、高強度トレーニングよりはやや劣るところであるため、競技者がこのフェーズまできたら高強度トレーニングが必須になってきます。その他、アジリティトレーニングなど様々なトレーニングをする必要があります。
エンデュランス系スポーツ競技者への応用
血流制限トレーニングは基本的に筋肥大前提の筋力向上となります。
怪我をしている時の筋肉量維持に効果的である一方、当院ではエンデュランス系スポーツ(ランニング、自転車ロード、トライアスロン)をされている方が多いので、筋肥大に関しては抵抗がある方も少なくありません。
そういった考えを持っている方に対して伊田先生の回答は「有酸素運動をたくさんやっている場合には、そもそも筋肥大を起こすことが難しいので週2回程度の血流制限トレーニングで筋肥大は起こらないと考えても良い」との見解でした。
エンデュランス競技をしている方に血流制限トレーニングを行う場合の先生の提案としては、有酸素運動前に適宜血流制限トレーニングを行い予め体内に乳酸が生成された状態を作り出し、レース後半の乳酸が溜まっている状態を模してランニングや自転車などの競技トレーニングを行うのも効果的ではないか、とのことでした。
血流制限トレーニングの筋力向上効果は薄れてしまうかもしれませんが、競技トレーニングとしては良い方法かもしれません。
また、smart cuffsにはトレーニングモードだけではなく、IPC(Ischemic Pre Conditionig:虚血性プレコンディショニング)というモードが備わっているのですが、これを運動前に行うことで筋損傷の軽減や筋出力が上がるという報告もあるそうで、レース前のウォーミングアップに組み込むのも効果があるかもしれないと先生は仰っていました。
水泳に関してはすでにアメリカではドライトレーニングの一環として血流制限トレーニングを取り入れるケースも多いということで、トライアスリートの方のスイムパートのトレーニングとしてお勧めできるとのことでした。
血流制限トレーニングを行うことができないケース
そんな血流制限トレーニングですが、高負荷ウエイトトレーニング同様に誰にでも行えるわけではなく禁忌事項もあります。
以下の場合は禁忌となり、状況によってかかりつけ医に相談をしてもらう場合も出てきます。
・がん患者
・透析患者
・リンパ浮腫
・感染症
・循環障害
・開放性の傷がある場合
・妊娠中
・ホルモン補充療法
・鎌状赤血球貧血
・重度の高血圧
・重度の圧迫障害
・血管グラフト
・静脈血栓塞栓症
また、噂話で血流制限トレーニングでの血栓症のリスクを気にする方もいらっしゃるかもしれませんが、高強度トレーニングの方がやや血栓リスクが高いくらいですので、血流制限トレーニングが特別、血栓を発生しやすくしているということもありません。
持病として血栓症をお持ちでなければ高強度トレーニングとリスクはそれほど変わらないと考えてよいでしょう。
おわりに
ここまで血流制限トレーニングのメリット・デメリットを紹介してきましたが、総じてメリットの方が大きいと考えています。
禁忌事項に該当しない方であれば積極的に取り入れていただいても良いリハビリ、トレーニングだと思います。
興味のある方はお気軽にご相談ください。
当院は引き続き医学的根拠のあるサービスを提供できるよう日々学んでいきます。